風紀が、この教室から姿を消した。
担任の小百合先生が入ってくるなり出て行った。
・・・先生が原因ではないだろう。
多分、この生徒が原因なんだ。
美人。
その言葉が似合うような顔持ち。
私は、その子をじっと見ていた。
「ねぇねぇ」
その子が私の方を向き、何か聞きたそうな声をしている。
「さっきの、風紀・・・・香坂君だよね?」
「はい」
初対面の人にタメ語とは何事だ〜!
「付き合ってるの?」
「付き合ってないですけど」
「そっかぁ」と呟き、その生徒は廊下を見た。
風紀を探しているのだろう。
先生が先ほどの話をまた話題に持ってくる。
「けどねぇ香坂と明日香ちゃんって仲いいんだよ?」
クラスの自慢のように話す先生。
「そういえばまだ紹介してなかったわね。こちらが、今日から転校してくることになった、木村 凛さん。明日香ちゃん仲良くしてあげてね!」
ウッフッフ〜ンと言わんばかりのテンションで私に話しかけてくる。
「は、はぁ・・・」
溜息なのか、返事なのかよく分からない声を出してしまった。
時は過ぎる。
今の時間は8時38分を示している。
未だに隣にいるはずの風紀が戻ってこない。
凛って言う人は、担任室で待つように言われたらしい。
沙希はいつも通りの雰囲気。
そういえば夏休み3回しか遊ばなかった。
今更後悔中。
皆も、久しぶりに会えた嬉しさなのか、夏休みはいる前とは全く違う雰囲気。
「どうしたの明日香?」
ふと、沙希の顔が私の視界全体に入る。
「ううん。何も無いよぉ」
エヘヘと笑って誤魔化した。
その笑いと共に、チャイムが鳴る。
結局・・・風紀は戻ってこなかった。
先生が来ると同時に、皆は自分の席に戻る。
ガラッとドアが開く音。
それから3秒後には「おぉぉぉ!」と男子の声が聞えてきた。
委員長が「起立!礼!」といい、一日が始まる。
「え〜とこの人は木村 凛さん。親の用事があって、転入してきました。じゃあ、凛さん何か自己紹介を」
「え、え〜と。この学校のある一部の人とは知り合いです。例えば・・・香坂君とか」
そのとき、クラスからはザワザワとした声が聞える。
先生の「しっ!」と言う言葉と同時にシ〜ンとなった。
「これからよろしくお願いします!」
ペコッと頭を下げて誰から見ても可愛い挨拶の終わり方。
先生は、凛さんの席を一番後ろの右から2番目の席を指定した。
風紀が心配だ。
ホームルームも終了し、先生に風紀の居場所を聞いた。
保健室。
私は次の授業に間に合わないと思うが、保健室へと走った。
・・・ぅぅ。
直ぐ息が切れる。
1階に着く頃にはもうばてていた。
保健室のドアを開く。
「こんにちは・・・」
今にも倒れそうな声を出す私。
恥ずかしい〜!
「明日香ちゃん!今・・・ちょっと取り込んでて」
いつも保健室に遊びに行くと居る先生が私に中を見せないようにして外へ追い出してきた。
「ど、ど、どうしたんですか?」
「あのね今、中に香坂君が居るんだけど、何か様子が変なの 」
「風紀がですか?」
先生は頷き、「もう家に帰すつもり」と言ってさようならした。
保健室の前で立ち往生。
「風紀大丈夫なのかなぁ」
そう呟いた後、私は一限目の授業をする場所に向かった。
その日一日。
とてもつまらなかった。
いつも私の視界にいた風紀がいない。
そんな寂しいことは今あって、現状にあって・・・。
心に穴が開いた感じがしたんだ。
下駄箱に向かう。
下駄箱を開き、靴を取り出す。
毎日のように入っている手紙。
まず、名前を見て誰かわからない。
そういうものは捨てろと親に教えられた。
ゴミ箱にそれを捨て、いつもより歩幅を広げ、歩くスピードを2倍にする。
風紀に会いたい。
その一心で。
自分の家に着く。
右手でゆっくりとドアノブに手を掛け、ドアを開ける。
「ただいまぁ!」
シ〜ン。
・・・。
シ〜ンって何なんですかシ〜ンって。
風紀のドアを開ける。
「風紀!」
・・・誰も居ない。
家の中を探し続ける。
「・・・風紀」
すごく寂しい気がした。
気がつけば、手に携帯を握っている。
亮平君なら何か知ってるだろう。
アドレス帳を開き、亮平君に電話する。
「はいもしもし」
亮平君の声だ。
「りょ、亮平君!風紀の居場所知らない?」
しばらく沈黙。
「知らないな。何かあったの?」
「家に帰ったら見つからなくて」
「まぁ・・・そのうち帰ってくるだろうから、家の中で待っていて」
「うん」
「じゃ」
プープープーと携帯の悲しい音が流れる。
家の中で待っていてって言われてもそんなに待てないよ。
自分の部屋に行き、私はベットにドシッと倒れた。
風紀の元彼女の凛って言う人。
美人だった・・・。
風紀は過去に何があったのだろうか。
風紀の力になりたい。
考えると埒が明かなかった。
・・・私は涙を流した。


力になれなくて。


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