明日香からの電話を切った。
心配しすぎなんだよな明日香は。
やっぱり風紀のことが・・・。
切るとき、ちょっと強引過ぎたかな?
だけど、どうせ泣いている今の風紀を明日香に見せる訳にはいかない。
風紀の行きそうな場所はつかんでいる。
一応これでも趣味は人間観察だからな。
それに風紀とは幼馴染だし。
あいつのことなら何でも知っていると言っていい。
俺は財布と、携帯をポケットに入れて2階の自分の部屋から降りていく。
「亮平!何処行くの?」
って親に聞かれたけど「ちょっと」としか答えられない自分が居る。
只今の時刻、16時25分。
自転車に乗り、風紀が居ると思われる場所に向かう。
多少壊れているのか、キコキコと痛々しい音が聞えてくる。
明日香はちゃんと家に居るだろうか。
無駄に探してはかわいそうだし。
早く見つけよう。
明日香の今の心境は、風紀を待つに相応しく無いだろう。
早く見つけなければ。
まずは、風紀が昔住んでいた場所に向かう。
自転車で5分といった所にある。
中は真っ暗。
近くの窓から中を覗いた。
こりゃいないな。
自転車に戻り、乗り始める。
「やっぱりあそこしかないな」
右足で思いっきりペダルを踏んだ。
徐々にスピードが上がっていく。
立ち漕ぎまでして、スピードを上げる。
風紀がいつもどん底に落ちたときはあそこにしか行かなかった。
凛と別れた時もあの場所で一人泣きしていた。
あのときの光景は忘れない。
俺には、その光景が闇に浮かぶ放浪人に見えた。
「はぁはぁはぁ」
ブレーキを引き、ゆっくりと自転車を止める。
ペダルから足を離して、地面につける。
鍵をしっかりかけたのを確かめ、坂を下る。
その場所は、公園のような川。
昔から隠れ家として使っていた場所へと向かう。
そこから眺める景色が絶景で、昔俺と風紀と智也と3人で最高の場所の名所をつけた。
そこにつくと、啜り泣きをしている風紀を見つけた。
その光景を見てしまった俺はじっと眺めていることしか出来なかった。
風紀が俺の存在に気づく。
「亮平・・・」
目が真っ赤にはれている風紀が俺に話しかけてきた。
「また、お前ここにいたのかよ」
風紀は俺のほうを見るのを止め、また前を向く。
「この場所がすきなんだ」と呟いて。
俺はそっと、風紀の隣に座った。
「明日香が心配してたぞ?」
「そうか。あいつには悪いと思ってるんだ。明日香は俺に、大和と言うやつのことを話してくれた。俺は凛の事、女性恐怖症のことをまったく話していない」
空を見上げるようにして風紀はそう言った。
俺は何も答えることができない。
「凛の顔を見ると、今でも泣けてくるんだ。もう直ったかな?って思ってたんだけど、亮平の口から凛の話を聞いたとき涙が出そうになった」
・・・。
あの時から風紀は可笑しくなったんだよな。
「学校行くとあいつが居てさ、顔もまともに見れずにその場を立ち去ってしまったよ。吐き気がしてさ。あのときの事思い出すと・・・」
なんと答えればいいのだろう?
親友を隣にして何も返答できない俺は情けない。
『思ったことを言えばいいんだ』
そういえば昔、智也にそんな事言われたっけ。
「風紀。あのさ、俺はどうこう言える立場じゃないけど、昔のことを気にしてたら目に進めないんじゃないかな?今のお前には立派な支えが居るだろ?家に帰ってしまえよ。な?」
風紀のほうを見ると涙を流していた。
さっきよりも早く、無表情に。
風紀は涙を袖でひと拭きし、いつもの笑顔で大きく頷いた。


久しぶりの二人乗り。
風紀を後ろに立たせ、俺がこぐ。
いつもこのパターンだ。
駅まで見送りに行く。
自転車をいつもの1.5倍の強さでこぐ。
息を切らして、俺は進む。
・・・へっ。なんてお人よし何だ俺は。
明日香の元に帰れだって・・・。
あいつを好きなのはそこらへんの男だけじゃないのにな。
風紀が意味不な言葉を発している。
二人乗りすると、風紀はこうなる。
「お前なんでそんなにいつも叫んでるんだよ?」
って聞いてみると、
「だって、そうなる気分じゃん?」
と風紀らしくも無いことを言っていた覚えがある。
「亮平?」
後ろからひんやりと冷たい言葉が聞える。
「何だよ?」
いつもより、真剣な声。
この前もこういうことがあったな。
こういう声をすると、何を言い出すか分からない。
「ありがとな」
暖かい言葉が俺の背中に感じた。
「おう」
これが男の友情って言うやつか。
久しぶりに、風紀からありがとうって聞いた。
最後に聞いたのも、凛が関係していたな。
そうしているうちに、駅に着いた。
ちゃんと風紀は立ち直れるだろうか。
大丈夫だろう。
風紀は強い男。
それに、明日香がついている。


・・・風紀?
お前、思っている以上に、もてるらしいぞ。
特に、お前の親友が好きな奴からは。



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