「うまいな?うまい。うまい」
何かを誤魔化すために俺は「うまい」を連発。
その間、明日香はだんまり状態。
・・・。
俺たちは今、某ファミリーレストランに居る。
美味くて、値段が安い。
学生のカップルには丁度いい場所だ。
俺達は、カップルじゃないんだけど。
「なんと言うか・・・あれは」
と、俺が言い出すと、明日香は「やめて・・・」と聞えるような聞えないような声で俺にささやく。
店に入ってからこの行動をとったのは、3度目だ。
この状況を簡単に説明すると、

気まずい

別に悪いことをしたわけではない。
ただ単に、明日香が俺と凛のキスシーンを目撃したというだけのことである。
明日香は、フライドポテトを一つフォークで刺し、口へと運ぶ。
その行動は、何故か寂しげに見えた。
俺はというと、ハンバーグを一口サイズに切り、パクパクと口に運びつつ明日香を見る。
心の中で溜息。
本当に気まずいなぁ。
はぁ。
某ファミリーレストランに入って30分。
やっと、明日香が話しかけてきた。
「ふ、風紀?」
突然の出来事。
当たり前のように、俺の反応が遅れる。
「・・・え?あぁ、な、何?」 俺がそう言った後、明日香の返答は無かった。
また、明日香はフライドポテトを口に運ぶ。
俺は、次いつ話しかけられても大丈夫のように、ハンバーグには手をつけない。
フライドポテトを二つほど摘んだ後、明日香はまた口を開いた。
「凛ちゃんと・・・付き合ってるの?」
・・・?
いやいや、凛とは『付き合ってた』という過去形であって、決して『付き合ってる』という、現在進行形ではない。
明日香は、俺の返事を待たずに
「私、邪魔かな?」
と、聞いてきた。
ここは俺も即答。
「邪魔なわけ無いだろ?」
明日香は間をあけずに、
「いいの。邪魔なんでしょ?」
と言って、明日香は店を飛び出す。
「あ、明日香!?」
俺は、追いかけた・・・が、店からは出れなかった。
ドラマみたいに、追いかけていって「待てよ!」とかいえる状態ではない。
このまま飛び出していけば、「お客さん!お勘定は?」
と言われ、俺は食い逃げをしたことになる。
いや、なってしまう。
俺は、会計所で勘定を済ませる。
その後、大急ぎで店の外に出た。
右方面、自転車に乗ってる小父さん。
左方面、誰も居ない。
「・・・馬鹿が。勘違いしやがって」
情けないな俺。
思いつくのは自分の家しかない。
猛ダッシュで家まで向かった。
約5分。
息を切らしながら、俺は家に着いた。
しかし、ここで疑問。
俺は明日香を抜かしていない。
俺は猛ダッシュできたんだ。
あの、数メートルしか走ることの出来ない明日香を、抜かせないわけが無い。
「置いてきたか?」
一瞬、不安がよぎる。
只今の時刻、7時過ぎ。
明日香の可愛さと美貌で、男に襲われたのか?と。
家の前で息を整える。
1%の確率も無いと思うが、家のドアを開けた。
鍵は・・・掛かっていない。
マジかよ・・・。
明日香の靴がある。
電気はついていないが、明日香がいる気配。
明日香の部屋をノックする。
「明日香・・・いる?」
なんだか、今日の某ファリーレストランに行く前と同じ光景。
「いない」と、明日香の部屋から聞えてきた。
「いるじゃんか」
と俺は言う。
・・・漫才やってる場合じゃないし!
俺は、無理やり明日香の部屋を開けることが出来なかった。
誤解は解きたい。
そう思う自分が居る。
「明日香?」
もう一度、ノックした。
「いないって!」
だから、漫才やってる場合じゃない!
「じゃあ、独り言。俺は凛と付き合ってない。決して、明日香のことを邪魔とも思ってない。あと、今日の出来事は不意を衝かれただけのことだから」
俺が言った後、明日香の返答を待つのみ。
5分経過。
「私も、独り言」
いや、居ないんじゃないのか?


「私は、・・・私、風紀が好き。大好き。死ぬほど好き。だけど・・・いや、だから風紀の幸せを一番に考えたいの。」


何も・・・答えられなかった。
何も・・・言葉が出てこなかった。
明日香が、俺を好き?
そんなことがあっていいのか?
その日一日、何も喋れなくなった。



次の日の朝、
  明日香は

    俺を起こさなかった。



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