「あんた、それでも男かぁ!」
私は、叫んだ。
腹の底から叫んだ。
私、山川 楓(やまかわ かえで)は、私の友達、菊池 郁(きくち いく)と会うたび喧嘩する。
何故かは分からないが、会うたび喧嘩する。
だけど、私は郁が好きだ。
大好きだ。
・・・え?いやいや、そんなんじゃないよ。
友達として大好きだ。
まぁ細かいことは気にするな。
私は、自分の筆箱を片手に持ち、郁に向かって投げる。
だけど、郁は人離れした反射神経が優れている。
例えばゲームセンターにあるモグラ叩き。
あれは、出た瞬間に叩けるという高技術をする郁。
まぁ当然のように全部たたき、私の心を掴み取った。
掴み取ったのは、感心と言う名の心だ。
ゲームセンターに行かせると、私は郁にもぐらたたきをさせる。
後は、銃撃戦みたいなシューティングゲーム。
絶対的に弾が当たらない。
あまりにも、長くやっているので、私がいつも邪魔して弾が当たる程度だ。
そんな郁に筆箱を投げた。
まぁ、勿論避けられ、後ろにいる天田 新斗(あまた しんと)に直撃する。
ガツン!
「いってぇぇぇ!」
頭を押さえながら痛がる新斗君。
「だ、大丈夫!?」
私が、駆け寄る。
その瞬間、へらへら笑う郁の顔が目に入った。
「郁!なんで、避けるんだ!」
「いや、避けなきゃ当たるし・・・ね?」
「郁が避けたら人に当たる。分かってることだろう?ここは郁が当たって、人様に迷惑をかけないのが先決ではないの?」
私は郁に問う。
「・・・俺って、自由奔放だから」
自分で言うな。
そんな彼は、へらへら笑うのをやめない。
私は、新斗君に「大丈夫?」と言いながら、顔を覗き込む。
すると、新斗君は私に背を向けた。
「あ〜あ。おい新斗!お前も何か言ってやれよ。その格好いい顔に、こんな硬い筆箱当てやがって!とかさ〜」
そう言う、郁に目を向けたときだった。
私の目に、見覚えのあるものが写った。
「い、郁・・・」
彼の手の中にあったのは、私が先ほど新斗君に・・・いや、郁に向かって投げた筆箱である。
「あ〜こんな硬いの新斗様に向かって投げたら可愛そうじゃないの。それとも、違う人に向けて投げたのかな?」
へらへらからにやにやに変わった郁。
その顔が無性にむかつく。
「・・・お前に向かって投げたに決まってるだろうが!」
私は郁に駆け寄り、筆箱を奪い取った。
その行動は一瞬の出来事で、反射神経が良い郁さえ動けなかった。
周りのものは、忍者でも見たかのような顔。
「な、なんですか?」
そういいながら、私は自分の席に着いた。
ここは、2年1組。
家庭の授業中の出来事だった。
彼は、先ほど自分で言ったように、自由奔放。
したいことをしたいときに行う。
私は、その出来事につき合わされている可愛そうな女の子だ。
郁は頭がいい。だが、授業中にこんなことを行うので、授業態度最悪。
成績は中の下と言ったところだろうか。
私は、その郁より頭がいい。
と言うか、学年一頭がいい。
だけど、郁のせいで成績は上の中といったところだ。
郁さえ居なければ、上の上の上の上の上だったかもしれないのに。
はぁ〜と大きく溜息をついた。
今日の学校帰り。
いつも通り、郁と一緒に帰る。
郁が右に曲がれば右に。
郁が左に曲がれば左に。
郁がまっすぐ進めばまっすぐに。
郁が一回転すれば一回転・・・
「するか〜〜〜!」
私は、再び叫んだ。
「だって、ここまで近くで一緒に、同じ行動をしていると、やってくれるのかなぁ?って」
いつも通りのへらへら顔。
ぅ・・・
なんちゅう顔をするんだこの男は。
彼の家と、私の家は向かい合っている。
私は、彼とは反対方向の家に入った。
こんなお二人さん。
喧嘩は毎日してるけど、郁のことを知っている。
ひと時、「学年一頭がいい楓と、自由奔放の郁が付き合っている」という噂が流れた。
だけど、私達はそんことを気にしなかった。
そのせいか、その噂は違うと判断されたのかどうか知らないが、そのような話をここ最近、聞かなくなった。
私は、そんな彼を一番知っている人。
そう思い始めた、今日この頃なんです。



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