「け、けど・・・噂?噂でしょ!?」
私は真苗に問い詰めた。
真苗はちょっと身体を後ろにそらしながらもうんうんと頷いている。
郁の噂なんて、もう聞き飽きたぐらいだ。
別に気にすることはない。


『今まで誰とも付き合わなかった郁に彼女が出来た』


なんてさ。
別に、それが本当だとしても、私がどうこう言うことじゃない。
私は、郁が好き。大好き。
だけどそれは男としてじゃなく、友達として大好きなの。
そんなことは、分かっていながらもこの不安な気持ちは何だろう。
彼女が、可愛かったら?
郁がその彼女に、ベタ惚れだったら?
・・・その話が本当だったら?
そんな言葉が、私の頭を駆け巡る。
タイミングよく、昨日珍しく郁が私に話しかけてきた。
そのことからしてみると、そのことは本当だといっていいのだろう。
言って・・・いいのだろうか。
もしかしたら、違うことかもしれない。
そう!違うかもしれないんだ!!!
「ど、どうしたの楓?」
ふと、我に戻ると私は、真苗の前で「そうかそうか」と呟いていたようだ。
この年にして、独り言とは。
無性に悲しくなって、私はその場を去った。
2年1組のドアを開けると、そこはザワザワ状態。
しかも、そのザワザワは一部に集まっていた。
郁の机の周り。
そして、郁を中心にして。
その話に割り込もうとする私。
その瞬間、私の頭にある言葉がよぎった。
郁に彼女が出来た
その言葉が頭に浮かび上がった瞬間、私の行動は一時停止に。
巻き戻しは無い。早送りも無い。
スタートか、一時停止しかない私の頭が動いた瞬間だった。
その私を見つけたのか、郁が私の名前を呼ぶ。
郁のその行動が、私のリモコンをスタートへと変えた。
「な、何?」
私は、郁の近くへと寄る。
「お前、今まで何処行ってたんだよ。昨日、俺が話しあるって言ったのに」
ふてくされた郁の表情。
その表情を見ると先ほどの真苗との会話も忘れてしまう。
「ご、ごめんなさい。そのこと、すっかりと忘れていました」
何故か、敬語を使う私。
その私の行動を面白がってか、郁はこう言った。
「まぁ、馬鹿は昨日のことも忘れてそうだし、しょうがないか」
いつものように、へらへらと笑う郁。
馬鹿?
昨日のことも忘れてしまう?
そこで、へらへらと笑う?
その郁の言動に、私の中の着火点に火がついた。
その燃える勢いは半端なものじゃなかった。
「郁?私より頭悪いのに、そんな事言って宜しいの?」
不敵な笑顔を浮かべる私。
目からは、恐らく炎が映し出されているであろう。
その瞬間、私の顔の前に郁の大きな手がかぶさった。
私より、大きい手が。
「ストップ!今はそんな場合じゃないんだ。話があるって言ったろ?」
いや、私をこんな風にしたのはあんただ!
とめるなら、一発殴ってから・・・
妄想に入ろうとする私を、先ほどのいくの言葉でとめられた。
「は、話?」
何の話?
気になってしょうがない。
「おう。話だ。帰りに話すから」
そう言って、郁はザワザワ集団へと戻っていった。
私は、自分の席へと戻り、次の授業の勉強道具を出した。

帰り道、私は校門前で郁を待っていた。
郁は今日、日直で帰りの教室掃除をしなければならないという任務を先生に突き出されていた。
可哀想にと思いながらも、私は掃除が嫌いなので校門前で待っておくことに。
20分が経過したときだった。
郁が下駄箱から出てきたのだ。
太陽からの逆行が私を襲う。
話は聞きたくないと。
何故か恐れている自分が居たのだ。



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