隣を電車が通る音。
只今、喫茶店といえるかどうか分からない店屋からの帰り道。
郁が隣で、欠伸をしている。
隣で溜息をつく私に気付かずに。
あの時私は「ば、馬鹿野郎!」と叫んだ後すぐさま店を出た。
私を見る視線が嫌だったから・・・。
叫ぶなって?しょうがないじゃん。
郁に嫉妬をした自分が情けなくて。
ん?嫉妬?
ふと疑問に思い、頭の辞書を引いてみた。
『自分の愛する者の愛情が、他の人に向けられるのを恨み憎むこと。やきもち』
いや、そんな気持は決してない。
愛していないし、どちらかと言うと「好き」という気持だ。
Likeのほうだけど。
そんな気持も知らずに、私の心の言葉は一人で暴走って言うことか。
バカだな。私の心の言葉。
「そ、それで・・・面倒見てくれる?」
郁が不安そうな顔で聞いてきた。
私が、郁の事を好きって言う気持は変わらない。
しかも、ご近所さんのお付き合いと言うわけで、見捨てることも出来ない私。
仕方なく多きく頷いた。
すると郁の顔が、蛍光灯が付いたかのように明るい笑顔に戻って、「マジで!?」と聞き返してくる。
「マジで」と短文で答えると、小さくガッツポーズしたようだ。
私に隠している様子だったが、バッチリ確認。
その様子が何処か可笑しくて、私はクスリと小さく笑ってしまった。
その様子には気付いてくれない郁。
郁の蛍光灯のような笑顔が保ちつつ、私の家へと向かって行った。
私の家の前まで行く。
郁はいつも通りお構い無しに私の家の玄関となるドアを開けた。
そして入った。
・・・私よりさきにね。
私は、後ろにちょこちょこと付いていく。
私の家なのに。
お母さんがパタパタと音を立てて玄関までやってくる。
「あら!郁ちゃんじゃない!あがってあがって!」
お母さんは郁が来ると、すごいハイテンションになる。
まぁ、いつもハイテンションには変わりは無いのだが、郁が来た時は少しばかり違うオーラを放っている。
このことに気付いているのは、私だけだろう。
「おじゃましまぁす!」とドタドタ家の中へと踏み込む郁。
私より先にね。
郁は私より先にリビングへと向かっていく。
あんた、ずっと制服のままで居る気か?
そう思いながらも、私は自分の部屋へと入っていく。
その途中、郁のご飯が必要な事を思い出し、お母さんに「郁のご飯もよろしく!」と叫んだ。
部屋の中に入ると、女の子とは思えない殺風景な光景の部屋。
私が、着替えようと制服に手をかけると、後ろから聞き覚えのある声が聞えた。
「お前の部屋変わってないなぁ」
郁がドスドスと私の部屋へともぐりこんでくる。
制服に手を掛け、脱ごうとしている私を尻目に、私が愛用している布団に飛び込んだ。
・・・あのぉ。
私、着替えたいのですが。
その心の声に気づいたのか、郁はこういった。
「俺等の仲だろ?そんなの気にするな」
・・・プチン。
頭の奥にあるものが切れた音がした。
その音は、郁にも聞えたようで、顔の表情が徐々に変わっていく。
「い、いやちょっと待て、分かった!出てく出てく!」
瞬間移動でもしたかのような、郁の身のこなし。
私が、正気を取り戻した頃には、郁の姿は私の前には無かった。
そのままいつも通り着替える。
着替え終わり、下に降りていくと、お母さんと談話している郁の姿があった。
「お母さん、ご飯は?」
まだ、郁と談話中。
私が降りてきたことにすら気付かない。
「お母さん?」
密かな微笑を母親へと送る。
それでも気付かないお母さん。
「おい!オカン!!!」
女の子が発言するような言葉ではない言葉を大声で言った。
そこでやっと私の存在に気付いたらしく「何?」みたいな表情をしている。
「ご、ご飯は?」
「ん〜と、あと少しだよ。待っててね」
そして、また郁との談話に入った。
・・・えぇ〜!
郁はこちらに顔を向け、困った表情を見せる。
そんなあんたを助けないよ私は
そう、アイコンタクトで送ると、失神状態のような顔を見せてきた。
「自業自得ね」
にこっと郁に笑みを向ける。
何気にその表情が恐かったのかどうかは知らないが、私を見るのをやめ、お母さんに「トイレ貸してください」とだけ呟き、その場を去っていった。
クククと笑っている私の気付いたのか、こちらをギラっと睨んでくる。
だけど、笑いは止まらない。
私は今一度部屋に戻り、布団でずっと笑っていた。



   ←戻る    TOP    進む→       
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送