バタン!

朝、8時。
俺は家の異変に気づいた。
「明日香・・・?」
明日香の部屋の私物がなくなっている。
所謂、夜逃げ。
って違う。
明日香は、昨日の夜に何処かに行った。
全く音はしていなかった。
俺に気づかれないために、そこまでするか。
「だから、違うって言ってるだろ」
無性に寂しくなり、俺はテレビや箪笥等以外無い明日香の部屋でそう呟いた。

今日は学園祭3日目。
土曜日。
俺は、何をするでもなく、制服に着替えて学校へ向かった。
外はいつも通りの朝。
人は殆どいなくて、時々通る車を避ける。
たかが数分の道のり。
俺の外はいつも通りではなかった。
明日香がいなくて、この道が長く感じた。
準備中という看板がかけられた、猫耳メイドカフェに着く。
もしかしたらここに、明日香がいるかもしれない。
会ったらなんと言おう?
「戻って来いよ」とか、人前では絶対いえないし、他に言う言葉も見つからない。
けど、勘違いしたまま明日香は飛び出した。
まずその誤解を、とかなくては。
店の中に一歩踏み入れた。
「風紀遅〜い!!」
幸助が右手に持っている物体で俺を殴ろうとする。
ぱっと見ハリセンだな。
俺は、その場を冷静に判断し、ハリセンの軌道からずれハリセンを避ける。
そして、そのまま幸助の右手をつかみハリセン没収。
体制を崩している幸助の頭に、そのままハリセンを振り下ろす。
バシコーン!
と、言う音とともに「痛ぇ〜!」という幸助のさび声が上がった。
「ハ、ハリセンってそんなに痛かったのか・・・」
幸助の痛み具合によると、HPが97減っただろう。
「ごめんごめん!ちょっと、寝坊してな」
痛みを抑えながら、幸助が俺の方に向き周りを見渡す。
「あれ?明日香ちゃんは?」 と、言った。
俺は、何も答えることができずに、着替える部屋へと歩いていく。
勿論、ハリセンを持って。
俺が部屋に入るときに「ハリセン!」という幸助の叫ぶ声がしたような気がしたのは、気のせいだろう。
着替えが終わった俺は、厨房に入る。
開店まではあと少し。
そのとき、沙希が俺の所までやってきた。
顔が少し曇っていた。
そして、紙が一枚握られていた。
「風紀」
その一言だけ俺に投げかけて、紙を一枚俺に渡す。
ピンク色の紙。
ラブレターという言葉は一切思いつかない。

文化祭終了後、校門前で。
達筆で書かれていた。
言っちゃ悪いが、あいつが書くと恐いな。
今日は一日、厨房に入らなければならない。
明日、一日休みという条件付で。
何故、明日一日休みなのかというと、映画公開日。
一日限定。
一回限りの大イベント。
右手にあった紙をポケットに突っ込み、大きな一息着く。
何故大きな一息つくかというと、明日香が居ないからだ。
いつものあの笑顔が無い。
不思議がっているやつ等も居る。
明日香は、仕事をサボるような奴じゃないから。
クレープ仕事に、手がつかず今日一日ボロボロだった。
注文は間違えるし、クレープの生地を焦がすし、火傷はするし。
泣きそうだった。
明日香が居ないだけで、俺はこんなにもボロボロに。
明日香が居ないだけで、俺は、泣きたくなるほどに。
今日一日の仕事が終わり、着替えて校門前へ行く。
そこには沙希が待っていた。
「おっす」
俺は沙希に近づき挨拶をした。
だけど沙希の顔は曇ってる。
沈黙の風が流れた。
「何だよ?」
まだ、沙希の顔は曇ってる。
「それは、こっちのセリフ」
・・・へ? 「明日香に何したのよ?」
「いや、明日香には何もしてない」
「嘘付け!明日香は昨日私の家に来て、ずっと泣いてたんだ!朝まで泣いてたんだ!」
沙希が勢いで俺の胸倉をつかむ。
「何したんだって聞いてんだよ」
沙希さん?少しばかり・・・。
いや、少しどころじゃない、すごく恐いんですけど。
俺は、昨日の出来事を一字一句間違えずに沙希に説明した。
数秒置かれた後、沙希は一言、言って俺をその場に置き去った。

「・・・馬鹿」

と。


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