「大丈夫だった明日香ちゃん!」
まずは由美先輩が俺たちに駆け寄った。
「明日香!?大丈夫か?」
その次に亮平。
「明日香ちゃ〜ん。俺、心配したよ」
そして幸助。
その後、全員が明日香に駆け寄った。
「明日香ちゃん大丈夫?」とか・・・。
ポツンと孤独な俺。
はっきり言うと、俺も同じような危ない目にあったのですが・・・。
悠太が俺の方にはっと気付いてくれたようだ。
「ふ、風紀も大丈夫?」
その言葉をきっかけにして皆がシーンとした。
見た目上、俺のほうが重傷に見えるのだが。
足を引きづっているのだから。
「うん」
そっけなく返事をして俺は部屋へと戻る。
「風紀!今日はもう」
部長が言っている。
その言葉を遮って俺は「わかってる」そう言って階段を上がっていった。
203に入る。
光雄先輩が一人、本を読んでいた。
俺は無言で着替える。
そして、無言で座った。
光雄先輩と二人って言うのは何故か緊張したりする。
「拗ねてるんか?」
「そんなことないですよ」
光雄先輩と喋ったのはこれが初めてかもしれない。
「まぁ拗ねてる原因はなんとなく分かるんやけどな」
何処か関西弁が混じっているような言葉。
「そんなことないですって」
「・・・。」
「・・・。本当ですよ?」
「・・・気にすんなや」
そう言ってまた光雄先輩は本を読み始めた。
だから拗ねてるとか、そんなんじゃないって。
空いているスペースに俺は仰向けになる。
目をゆっくりと瞑ってみた。
風の音がする。
他は何も音がしない。
がたがたっと音が響くだけ。
光雄先輩の本をめくる音がたまに聞えてくる。
その音が何故か俺の心を癒して、眠気を誘った。
「お・・・ふ・・・だぞ?」
誰かの声がうっすらと聞える。
「おい風紀!ご飯だぞ!」
亮平が俺の肩をものすごいスピードで揺らしている。
「ん・・・。もうそんな時間か」
時計をチラッと見る。
7時18分。
部屋には俺と亮平しかいないようだ。
「お前本当に起きるの遅いよな。そうそう、起きるって言ったら、3組の・・・」
また、亮平の噂話が始まった。
いやいや、ちょっと待て。
俺の記憶が正しければ、晩御飯は下の食堂で7時からじゃなかったっけ?
こんなゆっくりしていいのか?
「亮平。ご飯」
俺は噂話をしている亮平に話しかけた。
「・・・ん?ご飯?あぁ食べに行く?もう皆行ってるけど」
「そうだな」
『行っているのは見れば分かる』と突っ込みたい所だったが、今は寝起きでそんな力も無い。
ゆっくりと立ち上がり、ドアの前にある鏡で一応髪を整えた。
よしっ。
と心の中で気合を入れてから歩き出す。
食堂に着くと、ほとんどの人が食べ終わっており、もうその場には居なかった。
じゃあ何処に?って話になるのだが、大体は風呂だろう。
ご飯を食べた直後の風呂。
俺にはちょっときついな。
そこには、明日香と静香と五十鈴が何も手をつけずに待っていてくれたみたい。
「大丈夫風紀?」
そういわれたのはまだ足の運び方が可笑しいせいか。
「まぁ・・大丈夫」
安心させるように明日香に言った。
「もしかして、俺たち待っててくれたの?」
亮平が分かりきったことを聞いている。
「うん。明日香ちゃんが待ってようって・・・ね?」
五十鈴は明日香の方を向き、そういった。
恥ずかしそうにする明日香。
「ありがとな」
俺は礼を言う。
「どういたしまして」
明日香は笑みを作りながらそういった。
その日の晩御飯は皆でワイワイ喋りながら食べた。
ご飯が美味しかったのは覚えている。
明日香の笑顔が可愛かったのも覚えている。
亮平がいつも以上に元気だったのも・・・覚えている。



7日間の合宿は一日延びて8日間の合宿となった。
あの事件以来、大きな事故は起きず、俺の脚も次の日になれば通常状態に戻っていた。
帰り道は行き道より短く感じて、部活の皆とも前以上に仲良くなれた気がする。
あの事件は誰も口には出さない。
まさか、皆俺が拗ねたとでも思っているのだろうか。
・・・。
考えないで置こう。
俺たちは、地元に着き解散という形になった。
俺と明日香は同じ道を歩く。
部長も同じ道だということを今日初めて気付いた。
しかしそれは、ほんの10秒ぐらいのことだけ。
部長は自転車で通っているらしい。
俺たちは歩きで、道も違うから滅多に会わないのだ。
・・・今日は疲れた。寝よう。
夏休み。
もう部活は無い。

色々あったけど、夏休みという天国であり、地獄であった時間が終わりを告げた。



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